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(左から)
隈元 浩康(取締役 執行役員 生産本部長、磐田工場長)
山形 達哉(取締役 常務執行役員 コーポレー卜本部長 兼 EHS Executive)
谷中 史弘(取締役 常務執行役員 研究聞発本部長 兼 ファインケミカル事業本部担当)
水野 直樹(取締役 常務執行役員 調達本部長 兼 サプライチェーン本部長 兼 生産本部担当)

私たちの事業活動は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)とさまざまな形で結びついています。
例えば、「CO2 排出削減」では全社的な省エネ活動、「グリーンケミストリー」の推進では製造プロセスの革新があります。
高砂香料グループでは、研究開発や調達・生産・物流のサプライチェーンから働き方まで領域を問わずSDGsで設定されたテーマや目標を重点課題と位置づけ、グローバルな体制で取り組んでいます。
今回は各部門の統括責任者が、それぞれの分野における活動の進捗や課題などについてご報告します。

 

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SDGsは「Sustainable Development Goals」の略称で、2015年の国連サミットで採択され、加盟193カ国が2030年のゴールを目指して掲げた国際目標です。当社は2017年に国連グローパル・コンパクトに署名するとともに、SDGsの17の目標・169のターゲットについて、事業活動を通して貢献できることを精査し、地球規模の課題解決に取り組んでいます。

CSR

一つひとつの課題に対する着実な取り組みでCSR推進強化を目指す

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取締役 常務執行役員

コーポレート本部長 兼 EHS Executive

山形 達哉

 

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高砂香料グループのCSR活動は、環境、健康・衛生、安全の他、基本的人権の尊重やリスク管理など幅広いテーマが設定されています。推進体制と特に進捗している取り組みは何ですか?

山形: 2017年にCSR推進会議を発足させグローバルでコミュニケーションを図りながらCSR活動をグループ全体で強化してきています。また、現中期経営計画「One-T」(2018 ~ 2020年)においてはCSR推進強化の3か年と位置づけ、気候変動問題、人権の尊重など地球規模の社会的課題にも重点を置いて取り組んでいます。

気候変動問題ですが、グローバル企業に求められるTCFD※1の4つの推奨項目(ガバナンス、リスクと機会、戦略、指標と目標)に沿って高砂香料グループの気候変動に対する活動指針を2020年4月に開示しました。その中で、目標設定においてはSBTの基準に沿うように現在準備を進めております。いかにCO2の排出削減を実行していくかは今後の課題ですが、2019年環境省主催のサプライチェーン排出量算定支援を受け、スコープ3(サプライチェーン)における区分ごとの計算ができるようになり現状分析にも着手しました。

当社グループでは従来よりCO2排出量削減を重要な課題と位置づけており、2009年から続けているEHS100プランでも、環境に関する目標の一つとして、水使用量の削減、廃棄物の削減とともに取り組んできたテーマとなっています。継続的な省エネ活動に加え、CO2排出係数の低いエネルギーや再エネ由来電力へ切り替えを進めた結果、原単位で2019年度に2010年度比32.6%削減を達成いたしました。より活動を推進すべく目標を上積みして2020年度は「35%削減」にチャレンジしています。

マテリアリティの項目で「人権」を特定されていますが、高砂香料グループにおける人権に関する取り組みを教えてください。

山形:当社グループでは、2019年に「高砂香料人権ポリシー」を策定しており、その具現化プロセスとして幅広い領域を包含する日本弁護士連合会のガイダンスを参考に人権デューデリジェンスの仕組みを構築し、国内外の全事業所で人権侵害や意図しない加担のないことを確認しました。

この取り組みを通じて、全部門にて法令遵守を再点検するプロセスの構築、またITセキュリティー上の脆弱性などを可視化し改善に努めました。今後も、これを続けていくことでグローバル企業としてさまざまな面での責任を果たしていきたいと思います。

※1:TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)は金融安定理事会(FSB)が2017年に設置。ESG投融資を行う機関投資家・金融機関にとって、企業が気候変動のリスク・機会を認識し経営戦略に織り込むことを重視し、その開示を推奨している。

研究開発

酵素やバイオ技術による天然原料の代替、環境負荷の少ない製造プロセス開発に注力

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取締役 常務執行役員

研究開発本部長、ファインケミカル事業本部担当

谷中 史弘

 

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ゼロエミ・チャレンジ (脱炭素社会の実現をイノベーションで切り拓く)

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当社は、経済産業省が主催する「ゼロエミ・チャレンジ企業(脱炭素化社会の実現に向けてイノベーションの取組みに挑戦する企業)」の一社として認定されTCFDサミット2020の場において公表されました。
当社の研究開発では、中期経営計画One-Tにおいて、「SDGsとGSC(グリーンサステナブルケミストリー)を考慮した環境に優しい研究開発」を目指しております。本年100周年を迎え、その先の100年を見据えて新たに「自然との共生(Symbiosis)」を掲げて、より強力に脱炭素社会の実現に対する研究開発を推進してまいります。

SDGs目標の中で、特に重視している項目と最近の成果についてお聞かせください。

谷中:当社の研究開発部門は、基礎研究や製品開発だけでなく、香料の原料となる天然資源の持続可能性や製造プロセスにおける環境負荷の低減にも深くかかわることから、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」「13.気候変動に具体的な対策を」「15.陸の豊かさも守ろう」などへの貢献が重要です。

そうした中で、研究開発本部では「グリーンケミストリー」を念頭に製造プロセスの革新にも注力しています。持続可能な製造プロセスの実現に向け、2017年に「プロセス開発研究所」を設置し、コンパクトで効率性の高い連続フロー技術をはじめ、より安全で環境負荷の少ない製造工程を探求しています。

素材開発における最近の成果としては、再生可能原料を積極的に活用し、Sustainable Scent®シリーズなど環境負荷の少ないアロマイングリディエンツ製品を商品化。これには独自の不斉合成技術や触媒技術が活かされています。また、バイオ技術を取り入れ、酵素や微生物によるナチュラル香料素材の開発にも注力し、2019 年に新たなナチュラル香料素材の製造を開始しました。

生産量が減少し安定入手が困難な天然原料については、天然原料の中で貢献度の高い香気成分を自社で探索・素材化するなど代替化も一部で始めています。

グリーンケミストリーに寄与する技術として「環境負荷を削減する触媒」や
「連続フロー技術の応用拡大」が注目されています。

谷中: 触媒では、2019年に従来の還元剤を用いる方法から廃棄物の少ない触媒的水素化反応に置き換える技術を開発しています。連続フロー技術では、適用範囲の拡大を目指し、医薬品中間体に限らず、アロマイングリディエンツへの活用も検討中です。

今後、注力するテーマやターゲットなどを紹介してください。

谷中:研究開発部門では、バイオ技術がグリーンケミストリーを推進するキーテクノロジーと位置づけ、化学合成技術との融合によって環境負荷の少ないモノ作りを加速していきます。例えば、天然原料の成分の中で、香りが弱く香料としては活用できない物質をバイオ技術で良い香りのする有用な香料原料に転換させる研究開発を進めています。

製造プロセス開発では、触媒や連続フロー技術を進化させるとともに、入口から出口まで全製造プロセスにおけるエネルギー効率の向上とCO2排出削減の技術開発に注力します。

また、香りによるストレス低減、睡眠改善、香りと他の感覚とのクロスモーダル研究など生活の質を高めるヒューマンサイエンスの領域にも力を入れていきます。

調達

世界標準の「責任ある調達」に向けた仕組みやガイドラインを整備・実践

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取締役 常務執行役員

調達本部長 兼 サプライチェーン本部長 兼 生産本部担当

水野 直樹

 

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調達活動における取り組みの進捗状況などを教えてください。

水野: 調達部門では、ここ5年間で「責任ある調達」に向けた環境整備を加速させました。例えば、持続可能な調達の手引きであるISO20400に準拠した取り組みやサプライヤー選定の指標となる「TAKASOURCE」の開発が代表例です。

2020年1月には「高砂香料責任ある調達ポリシー」が完成しました。これは社会的責任の国際規格ISO26000を参考に、SMETA※2の監査基準に準拠したもので、今後は自己評価問診票を活用してお取引先様への理解・浸透を図り、監査も実施していきます。安全・安心の観点で行ってきた調査書による監査も、倫理項目を加えて継続し、必要に応じて現地調査または第三者に委託して現地監査を行うかを検討中です。

※2:SMETA (Sedex Members Ethical Trade Audit)は、英国で設立されたNPO会員組織のSEDEX(Supplier Ethical Data Exchange)が開発した監査基準。

SDGs目標「13. 気候変動に具体的な対策を」にかかわってきますが、
近年、多発している大規模な自然災害の影響はありますか?

水野: かねてからフロリダでは大型ハリケーンのリスクがあり、グレープフルーツ農園が被害を受け収穫量が激減し、加えて柑橘類の病害の蔓延などがあり、結果として天然オイルの確保が困難になっています。マダガスカルでもサイクロンによる被害で、エキス抽出に必要なバニラビーンズの価格が高騰しました。また、数年前に起きたライン川の水位低下が、水運の滞りや工場用水の不足をもたらし、流域の化学メーカーが製造する香料原料の供給に影響が及びました。

調達本部では、グローバルネットワークを活用し懸命に対応をしましたが、完全なショートは回避できたものの、価格高騰等への影響は避けられませんでした。

注力すべき課題や今後の方針は、いかがですか?

水野: いわゆる「VUCA※3の時代」には、リスクマネージメントによる備えが必須で、リスク回避の仮説をもとにPDCAを短期に回して体制の強靭化を図ることが重要です。同時に、お取引先様あっての調達であることを念頭に、今後も相互のコミュニケーションやリレーションシップを大切に「共生・共栄・共存」に努めます。

調達本部の使命は、事業の成長を支えるバリューチェーンの扇の要となり、「つながる心」を大切に、地球環境・安全衛生・法令・人権・地域文化・公正な取引に配慮した「責任ある調達」を実践することです。それには、天然原料・合成原料を問わず、より上流を視野に入れた取り組みに注力していかねばなりません。そのために、戦略的に持続可能な原料調達を目指すTaSuKI ※4や調達部門が開発段階からかかわって開発・製造をサポートするTACMI ※5など新たな調達モデルの可能性を広げていきます。同時に、再生可能原料やリサイクル容器の取り組みも継続的に推進します。

※3:VUCA(ブーカ)は、米国で生まれたビジネス用語で、変動性・不確実性・複雑性・曖昧性の頭文字を組み合わせた造語。
※4:TaSuKI (たすき:Takasago Global  Procurement Sustainability Key initiatives)
※5:TACMI(たくみ:Takasago Global  Procurement Arts & Crafts Mutual Interaction)

生産物流

CO2排出削減や水資源で年度目標を上積みし、主力工場の製造改革や物流改革に着手

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執行役員

生産本部、磐田工場長

隈元 浩康

 

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SDGs目標で当てはまる項目と主な取り組みを教えてください。

隈元: 「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」と「12.つくる責任 つかう責任」、そして「13. 気候変動に具体的な対策を」、さらに排出管理においては「14. 海の豊かさを守ろう」と「15. 陸の豊かさも守ろう」が該当するでしょう。

このうち高砂香料グループの最重要課題である気候変動への対策(CO2排出削減)では、各工場の地道な省エネ活動が功を奏し、冒頭のCSR 分野での報告のとおり、排出削減目標を上回る成果を上げています。

また、エネルギーと同様に貴重な水資源についても2018 年度に2010年度比20%の削減目標を達成し、2019 年度はさらに22.3%削減(実績)し、2020 年度目標を「25%削減」としています。

一方で、エネルギー消費量が多い合成プラントが稼働する操業51年目の磐田工場は、主力商品のメントール関連施設の老朽化が顕著で、計画的な再編が不可欠です。特に深冷工程のエネルギー消費量が工場全体の23%を占め、製造プロセスの見直しによる省エネや労働環境の改善を目指し、推進チームが取り組んでいるところです。

また、物流分野では、2020年4月、高砂香料グループの物流指針として、地球環境への配慮や地域社会の保全を掲げる経営基本方針に則り、「コーポレート物流ポリシー」を定め、取り組みを加速しています。

今後、注力すべき課題や取り組み方針などを教えてください。

隈元: 気候変動問題への対応として、サプライチェーンのCO2 排出量のうち、スコープ3のカテゴリー4「輸送・配送(上流)」の削減に取り組んでいます。その一例として、平塚工場の火災を機に広島県に新工場を建設したことでフレーバーの生産拠点が東西に分散し、保管倉庫を兼ねた平塚配送センターへ運ぶ拠点間物流の距離が長くなりました。これを改善するため、一部の製品を工場から納入先への直接出荷に切り替えて効率化を図っています。

また、メントールなどグローバルに供給している製品は、海外拠点での保管を検討しています。主要拠点に計画的なコンテナ輸送で在庫を分散することで、自然災害に対するリスク回避、輸送効率の向上による環境負荷の低減、デリバリースピードの向上などが期待できます。物流の効率化には他企業とのパートナーシップを活かした改革が、変化の激しい時代に適応するキーワードと考えています。その一環として、築24年の平塚配送センターの機能性を検証し、より効率的な輸・配送を実現するため、アウトソーシングも視野に物流拠点の見直しを進めます。

未来創造

-新型コロナウイルスへの対応と持続可能な成長へのビジョン策定-

世界中を脅かしている新型コロナウイルスの影響や対応は、いかがですか。

山形: 新型コロナウイルスによるパンデミックによって世界経済が大きく落ち込み、当社も嗜好品向け香料などで影響が及んでいます。その中で、食品香料や石鹸・洗剤などの日用品向け香料は、比較的安定的に推移しています。

水野: 一方で調達活動においては、感染拡大防止を図る各国のロックダウンに伴い、サプライヤーの製造・物流が滞り、原材料の供給不足・遅延の懸念が高まりました。そのため、当社では早めに需給予測を補足し、各国の調達担当者や関係者と連携してリスク回避と原材料の安定調達を図っています。

隈元: また、生産部門では、感染予防対策の徹底によりパンデミックの直接的な影響はありませんでした。間接的には、物流の滞りによる海外原料の到着遅れなどがありましたが、一部を除いて十分な在庫を確保し、生産計画の大きな変更もなく現在に至っております。

山形: 従業員の安全対策については、国内では公共交通機関で通勤する従業員に時差出勤を導入し、混雑回避・感染防止とともに柔軟な働き方にもつなげています。また、セキュリティー面にも十分に配慮しながら在宅勤務を導入しオンライン会議等もスムーズな運用ができております。4月に日本政府が緊急事態宣言を発令した際、本社では最大90%の従業員を在宅勤務としました。

今後の取り組み、目標についてお聞かせください。

山形:2020年2月にグローバルSAP※6プロジェクトのキックオフを行い、今後数年間にかけて海外主要拠点の基幹系システムを統合する取り組みを進めています。このプロジェクトを通して業務フローが高砂ベストプラクティスを実現できる形で統一され、それにより拠点間の異動や人材活用の柔軟性が高まり、自然災害に対するBCP(事業継続計画)の体制強化も図れます。SDGsの目標では「8.働きがいも 経済成長も」に該当する取り組みです。第一段階として、このシステムを海外事業所から導入し、5年後にはグローバルに運用していく計画です。

こうしたプロジェクトを推進できるのは、グローバルで部門ごとにコーポレートポリシーを定め、ガイドラインを整備して実践に落とし込む手順が高砂香料グループに浸透しているからです。これは「GP- 3」や「One-T」を通じて得た成果であり、サステナブル経営を推進していくための必須条件でもあります。

当社グループでは「One -T」で積み上げてきたプロセスを基盤に、「EHS100プラン」の後継となる「サステナビリティ2030」(仮称)の策定をCSR推進会議が中心となって進めています。そこではSDGsを念頭に、環境・社会・経済活動の好バランスを追求しながら、地球規模の課題解決に貢献するための議論を深化させています。
環境問題、人権問題、労働安全、人材開発、社会貢献活動など、私たちが強化すべき取り組みは多種多様ですが、今後も行動計画に沿って一つひとつ丁寧に課題を解決していきたいと考えています。

※6:ドイツのSAP 社が開発・提供する基幹系情報システム。企業のあらゆる情報を一元管理することで事業活動の全体最適化を図る。