インドのフレーバー・フレグランス市場

1. インドのフレーバー市場

インドの人口は12億1千万人、年間人口増加率は1.41%となっています。人口構成は若く、国民のおよそ65%は30歳未満です。インドは伝統を重んじる国ですが、現在、急速な変化を遂げつつあります。インドにおいて食品加工業は、生産・消費・輸入の各側面において最大の産業の一つであり大きな成長が期待できます。平均的な家庭の主婦が食事作りにかけられる時間は、従来と比較すると減少しており、食品産業に対する政府の優遇政策や、可処分所得の増えた若い消費者層の需要に後押しされ、インドにおける食品、フレーバーならびに農産物加工の各分野には、豊富な投資機会が存在しています。
インドの食品産業の規模は2015年までに、現在の1千810億USドルから2千580億USドルへ増加することが予想されています。この傾向は、3千180億USドルに成長が拡大する2020年度まで続くものと思われます。インドは世界の食品産業において、農産物の生産・輸出大国および加工食品の輸入国として、重要な地位を占めています。食料消費支出は年間1千810億ドル、一人当たり国民所得の31%に達しており、住居費を含む他の費目の2倍にのぼります。

インドにおける食品フレーバー市場の原動力となる新商品

インドの食品フレーバー市場は成長期を迎えており、新商品の投入による無限の可能性が期待できます。急速に進む都市化、可処分所得の増加、健康問題への関心の高まりと連動したコンビニエンス食品の安定供給が、食品フレーバー市場の成長を促す主要因となっています。これに加えて、健康や栄養に関する特定のニーズが政府や消費者の間で高まっていることなどから、食品・飲料市場が活況化し、結果的にフレーバー市場の急成長につながっています。とりわけ健康食品や飲料の分野に存在する新商品への需要は、さらなる市場成長をもたらします。この傾向は、今後数年にわたって続くものと思われます。インドにおけるフレーバー市場の将来は、健康および機能性を志向する飲料や食品の新規開発にかかっています。フレーバー市場を成功に導くためには、大手メーカーによるフレーバー製品の新規開発、販売力の強化、技術開発が不可欠です。
2011年のフレーバー市場規模は2億8420万ドルにのぼり、2014年には3億8060万ドルに達し、10.2%という順調な年間成長率を達成することが予想されます。同市場は毎年10%という急速な成長を遂げているのです。詳細は表1と図1をご参照ください。
インド国民の約70%は農村部に住んでいます。インドの農家では三毛作が行われており、新鮮な野菜や果物が安定供給されています。農業生産の年平均成長率は、モンスーン期の降雨量によって左右されるものの、3%から5%で安定しています。とはいえ、インドで生産される牛乳のうち加工されるのはわずか30%で、生鮮野菜・果物にいたっては、加工に回されるのは10%にすぎません。つまり食品加工産業には、大きな飛躍を遂げるチャンスが存在しているのです。
NGOの調査によると、インドでは子どもの40%が栄養不良の状態にあります。この状況を改善するため、インド政府は学童に対する昼食支給プログラムを開始しました。「アクシャヤ・パトラ」が運営する同プログラムは、およそ130万人の子どもに対し、お腹を空かせることなく勉強ができるよう学校給食の提供を実施しており、その成果が立証されています。
インドの農業に関するマッキンゼー社の報告書によると、インドの食品産業はきわめて細分化されているうえ、流通機構の開発も進んでおらず、国民のおよそ65%はフレーバーを使った食品を入手しづらい状況にあります。

表1 フレーバー市場の成長推移

Category market share(2011)

図1 Category market share(2011)

Category market share(2011)

インドにおける食品分野の将来性

インドの食品産業の成長予測は好調で、2015年から2020年の間に8%から10%の年平均成長率を達成する見込みです。社会経済ならびに人口統計の各側面における諸状況が、その根拠となっています。こうした成長をもたらす主要因を以下に述べます。

社会経済面における変化

  • ・収入階層に変化が生じ、低収入層から高収入層への移行が進んでいる。
  • ・法定貧困レベルを下回る世帯への手当給付や家計改善へ向けて、食料法案を通じた政府の取り組みが実施されている。
  • ・中低所得層および中間所得層の家計支出傾向に著しい上昇がみられる。
  • ・幅広い選択肢を求める若年層が増加している。
  • ・農村部から都市部への人口流出が進んでいる。

ライフスタイルにおける変化

  • ・核家族化が始まり、家計所得を補うために共働きをする夫婦が増えている。
  • ・糖尿病や肥満といった生活習慣病の発生率が上昇している。
  • ・食品に対する意識の高まりや選択肢の増加により、消費者の味覚に変化がみられる。
  • ・海外渡航の機会が増え、外国の食品や文化を受け入れる国民が増加している。
食品産業における急速な需要変化に対応するためにも、香料メーカーにはR&D部門への投資をさらに進め、新たな香料の開発や技術革新を続けることが期待されています。競争の激しいこの市場において競合他社に対し優位性を保つには、応用技術の革新や新製品の開発が欠かせません。インド市場おいて他社をリードし続けるためには、商品の価格設定やイノベーションへの重点的な取り組みを行う必要があります。より斬新で季節による変動が少なく、なおかつインド人の味覚にも合うフレーバーの考案が求められているのです。市場の将来予測については、図2をご参照ください。
フレーバー市場の成長予測が明るい見通しを示す中、実際には世界の食品産業における同市場の飛躍的なシェア拡大については苦闘を続けています。主要課題の一つとなっているのが、所得分布による影響です。低所得層にとって、高品質な食品添加物を使用した高級食料品は、今も手の届かない存在です。インドは貧困国であり、一人一日当たり摂取カロリーは、2300kcalしかありません。とはいえ、健康食品・飲料分野において新規フレーバーは多く利用されており、こうした高級品分野には多数の対象顧客も存在しており、それが成長の動力になっているのも事実です。
健康に対する意識や懸念の高まりが消費者の間に広がっていることから、コーラ飲料の消費量は減少していますが、最も普及度の高い商品であることに変わりはありません。飲料メーカーは健康に対する消費者の懸念に応えるため、健康志向を強調した非炭酸系ジュース飲料を発売しています。
インドにおいては、アムール、ブリタニア、IsgTC、パルレ、MTR、ハルディラム、ビーカジ、ダブールといった大手食品ローカル企業がマルチナショナル企業であるネスレ、ダノン、クラフト、日清に真っ向から勝負を挑み、ほぼすべての品目で大きなシェアを獲得しています。インスタントヌードルや加工食品は、インドで最も急速に成長しているコンビニエンス食品です。ゆるやかな成長をみせている乳製品分野においては、特にフレーバーヨーグルトの新商品が数多く発売されています。ベーカリー分野では健康によい商品が関心を集める傾向があり、ここ数ヶ月の間に新商品がいくつか発表されました。全体として、食品分野の市場開放は進んでおり、世界における食品ならびにフレーバー産業の中心地になり得るインドには、より豊富なビジネスチャンスが期待できるといえるでしょう。

図2 Category market forecast

Category market forecast

2. インドのフレグランス市場

インドとは、さまざまな意味で感覚を超越した国です。独特の時間の流れ、あふれかえる群衆、洪水のような騒音、豊かな色彩と香り。それがインドという国なのです。インドの各地方には独自の香りがありますが、一般的にインドの香りといえば、朝の寺院から漂ってくるフランジパニ(プルメリア)の芳香や、スパイスの効いたチャイの甘い香り、それらをかき消すようなほこりや汗、牛糞の燃える匂い、すべてを圧倒するモンスーン期の湿った土や自然の魅惑的な匂い、そしてジャスミンと白檀のお香の消えることのない残り香などが挙げられるでしょう。

インドにおける香りの歴史

インドで香料が使われ始めたのは、インダス文明が栄えていた紀元前2600年にまでさかのぼります。インドで知られている最古の香料は、アーユルヴェーダの施術を通じて広まったものです。アーユルヴェーダの概念では、すべての香りにはネガティブな影響から身を清め、生気を養うという重要な役割があります。アタール(香料)の蒸留に関する最古の記録としては、7世紀に北インドで書かれたヒンドゥー教のアーユルヴェーダ教本『ハルシャチャリタ』に、沈香の香油の使い方が記されています。アーユルヴェーダでは芳香植物を使った治療が推奨されており、健康や衛生の向上、病気の治療、美容、老化予防を目的とする施術が現在でも広く行われています。

インド人が好む香りとその要因

200以上の民族が1千種類を超える方言を話す、他に類を見ない多文化の国インドでは、消費者の香りに対する好みもさまざまです。複雑な文化事情に加え、地方によって気候条件が異なるうえ、時代を問わず常に外国の影響を受けてきたためです。今では電子メディアや交通手段の発達により、インドの若者は世界の最新トレンドをいち早く知ることができるようになりました。
北インド全域では、食品や衣料品、香りの好みにイスラム教の影響が強くみられます。また、寒冷な気候であることから、スキンケアやソープの分野ではローズの香りが最も好まれています。南インド市場では薬効が最重視されるため、自然のアロマが特に好まれます。そのためヘアケア、ソープ、ボディパウダーの分野では、サンダルウッド、薬草やジャスミンの香りが最も人気があります。しかし、世界の最新トレンドに敏感な都市部の若者は、最近では世界的に人気の高い香水を身につけ、流行にのったファッショナブルなイメージを演出することに魅力を感じています。

市場の現況と今後

インドのフレグランス市場規模はおよそ2億2500万USドルとなっており、過去5年間で年平均成長率10%を達成しています。インドのフレグランス市場においては、石鹸と衣類用洗剤の二大カテゴリーが合計56%のシェアを獲得しているほか、デオドラント製品が年平均成長率40%という最も急速な成長をみせています。
インドのフレングランス産業には大きな成長が期待できます。また、インドの一般消費財市場は今後5年間で12%から15%の成長が見込まれており、可処分所得の上昇による各種パーソナルケア商品の一人当たり消費量の急増が予想されています。しかしながらスキンケア商品の一人当たり消費量は、中国およびインドネシアでは8.0USドルと4.3USドルですが、インドは0.8 USドルにとどまっています。同じくシャンプーの一人当たり消費量は中国およびインドネシアでは2.3USドルと2.1USドルですが、インドでは0.6USドルにすぎないという現実もあります。
多くの文化が渾然一体となっているインドは、きわめて特異な国です。トレンドを浸透させるためには、インドへの融合を図り、現地の文化や価値観への敬意を払うことが不可欠です。

3. インドのミント油およびメントール産業

インドの農業が持つ戦略的意義

インドの国内総生産に占める農業の割合は21%にすぎませんが、同国の経済・社会・政治的枠組みにおいて、農業はこの割合をはるかにしのぐ重要な地位を占めています。インド国民12億人のうち72%が今も農村に住んでいますが、その多くは貧しい生活を送っています。農村部に住む貧しい国民のほとんどは、天水栽培による農業と貧弱な山林に頼って生計を立てています。1970年代に実施された「緑の革命」によってインドの穀物生産高は飛躍的に向上し、穀物自給を達成しました。これにより、インドは度重なる飢饉の脅威を食い止めることに成功したのです。農業集約化が行われた1970年代および1980年代には農村部で労働力の需要が高まり、人件費の上昇や食品の値下がりによって農村部の貧困削減が実現しました。インドの農業は、EUの面積に匹敵する広大な耕地に恵まれています。
通常、インドの農業では、ガンジス川やインダス川流域において三毛作が行われています。代表的な第三の作物であるミントは1月から2月に種をまき、モンスーン期が始まる前の5月から6月に収穫します。ミントはハッカ属で同じシソ科には、他にもバジルやセージ、ローズマリー、マジョラム、ラベンダー、ペニーロイヤル、タイムといった、精油の原料として広く栽培されている植物があります。商業的に栽培されているハッカ属にはいくつかの種類があり、主な成分の含有量や香り、用途によって分類されています。これらのハッカから抽出されるミント油や香料成分は世界各地で売買されています。

インドにおけるミント油生産

  • ・現在、ミント油の主要生産国はインド(80%)、中国(5%)、ブラジル(1.5%)、米国(13.5%)となっています。ペパーミント油の生産量は米国が約2,800トン、中国が約200トン、スペアミント油の生産量は米国が約2,600トン、中国が約500トンです。
  • ・インドでは、およそ29万ヘクタールの農地で約3万2,000トンの和種ハッカ油が生産されており、2011年度の平均生産量は1ヘクタールあたり約110キログラムとなっています。インドは世界最大の和種ハッカ油生産・輸出国です。和種ハッカは砂質のローム層やガンジス川沿いのやや温暖なヒマラヤ地区、北インドのインダス川流域で栽培されています。
  • ・インドで栽培されている4種類のハッカのうち、3種類が輸出されています。2011年度には470トンのペパーミント油と210トンのスペアミント油が生産されましたが、そのほとんどは国内の工場で使用されるか、オイル・エクステンダーとして米国に輸出されています。
  • ・もう一つはインドの和種ハッカ産業で、天然メントールクリスタル2万トン、メントール分取後のデメンソライズ油9,000トン、派生商品3,000トンの生産が見込まれています。
  • ・インド政府は、農産物加工業の発展をめざした支援を行っており、輸出業者ならびに生産業者には輸出額の7.5%に相当する販売報奨金が支払われています。
  • ・MCX先物取引所において和種ハッカ油全量の先物取引が開始されたことにより、インドのハッカ農家および同業界は、リスク回避や生産物の価格改善へ向けた基盤を構築することができました。

図1 Comparision of Natural and Synthetic Menthol Prices

Comparision of Natural and Synthetic Menthol Prices

図2 Mentha Oil export data(2011)

図2 Mentha Oil export data(2011)

メントールの世界市況

市場における天然メントールクリスタルの価格は、現在1キログラムあたり38ドルから40ドルとなっており、昨年2月よりも30%値上がりしています (図1)。加工業者が保有する和種ハッカ油の在庫が少なくなっていることから、天然メントールのさらなる価格上昇が予想されます。インドの5大メントール加工業者のうち4社の在庫が手薄になっており、2012年3月以降の納品が困難な状態です。MCX先物取引所における最近の価格変動や市場心理から、和種ハッカ油の価格は1キログラムあたり37ドルから40ドルに上昇するものと思われます。
大手化学メーカーが合成メントールの大量生産を開始したことから、天然メントールの世界的な価格変動が予想されており、2013年から2014年までに供給が需要を上回るものと思われます。
インドはデメンソライズ油(DMO)ならびにインディアンペパーミントブレンド油の輸出大国で、年間輸出量はそれぞれ約8,000トンと約1,500トンです。天然メントールの将来的な価格変動がもたらすマイナス影響により、これらエクステンダーの大幅な価格上昇が予想されます。
2010~2011会計年度における輸出状況は図2をご参照ください。

Raji Ghogale (2012) Takasago International (India) Pvt., Ltd.