和のフルーツ −日本が育てたフルーツ−

はじめに1、2)

日本には古くからフルーツを水菓子と呼び、菓子の一つとして扱う独特の文化があった。種類はカキ、ナシ、モモ、ウメ、ワリンゴ、ブドウなどがあり、特にカキとナシは明治以前の主要なフルーツであった。明治以降になると海外から多くの種類、品種が導入され、日本の風土に適応した形で生産されるようになった。
欧米と和のフルーツの違いには、食文化や環境が大きく関っているように思う。欧米文化の発祥地域であるヨーロッパでは、飲用の難しい硬水が多く、さらに通年でビタミン源になるような作物が少なかったことから、水分とビタミンが豊富に含まれるフルーツは生活必需品とされていた。保存食としてもフルーツが中心で、ジャムやジュース、ワインなどとして利用されていた。一方、日本は雨が多く、また良質な水と四季折々の野菜や山菜が豊富であり、それらから水分やビタミンの摂取が十分に可能であったため、フルーツはむしろ嗜好品、贈答品とされていた。
このような違いは現在のフルーツの生産に大きく影響している。欧米諸国は世界各地にプランテーション型のモノカルチャーを広め、品種を集中させて安価に大量生産しており、収穫量が多く病害虫に強い品種の選択や栽培が主に行われている。また、ジュース、ジャム、ワインなどの加工用が多いので見た目はあまり重視されない傾向がある。一方、日本は細長く起伏の激しい国土のため、一軒あたりの農地面積が狭く、コストの高い少量多品種型生産なので、単価を上げて経済性を高めるために、生食で重要な見た目と味、共に良い品種の選択や栽培が主に行われている。また、贈答品にする習慣から都心の一等地にある高級果物店で特産品として紹介されたり、海外で高級品としても扱われている。
本稿ではこのように日本で育てられ海外でも注目されている和のフルーツを紹介し、特にブドウについては品種間の香気成分の違いを紹介する。

生産状況と近年の動向 資1~5)

2006年の日本におけるフルーツの生産量は果樹、スイカ、メロン、イチゴを合わせると約385万t、生産量の多い順にミカン、リンゴ、スイカ、ニホンナシ、カキ、メロン、ブドウ、イチゴ、モモ、ウメとなっている資1)。これらのフルーツの世界での生産量をみてみると、日本で生産量の多いフルーツは世界でも生産が盛んであることがわかる資2)
ここ数年は日本の果樹の生産量は減少傾向にあるが、品質、安全性に優れた和のフルーツは行政により海外でのプロモーションが活発に行われており、現地で作られるフルーツと差別化され、モモ、ナシ、リンゴ、メロンについては既に輸出の実績が上がっており、生産量の低下に歯止めがかかることが期待されている資3)
ニホンナシはかつて海外でサンドペアーとして紹介されていたが、現在生産量の多い幸水や豊水などの品種は石細胞が少なく、果肉がやわらかくて、甘く果汁が多いのでウォーターペアーとして紹介され人気がある。
リンゴは1981年以来、日本で最も多く生産されているフジが品質の良さから世界的に注目され、世界2位の生産量を誇るアメリカの主要生産地、ワシントン州でも主要栽培品種になっている資4)
イチゴは特に品種の移り変わりが激しいフルーツの一つで、東京中央卸売市場での主要品種は、2000年、とよのか、とちおとめ、女峰であったが、2006年には、とちおとめ、さがほのか、あまおう資5)となっている。最近では、外国産が主流だった夏のイチゴ市場で、食品安全性の面から夏季収穫できる国産品種が注目されている。しかし、イチゴはその人気ゆえ、日本の主要品種が海外で無断に商業栽培され、日本の市場に影響を与えるような問題も起きており、今後の動向が気になるところである。

ブドウの概要2~5)

ブドウは昔から栽培されていたフルーツのひとつであるが、甲州以外の品種の多くは、明治以降海外から導入されたものである。ブドウは大きく欧州種、米国種、欧米雑種にわけられるが、世界の生産量のほとんどは欧州種が占めており、主にワイン用に生産され、多くの品種が空気を多く含んだ痩せた大地、乾燥した気候を好み、日本では生産に適した土地が少ない。一方、米国種は主にジュースや生食用として利用され、肥沃な土壌、多湿なところを好み、日本の風土に適している。
日本の代表的な品種は欧米雑種の巨峰、デラウェア、ピオーネ、マスカット ベーリーA、キャンベル アーリー、欧州種のネオマスカット、マスカット オブ アレキサンドリア、甲州、甲斐路、米国種のナイアガラなどがある。甲州は東洋系欧州種であり日本で栽培され始めて800年以上が経つといわれている3)。巨峰、ピオーネ、マスカット ベーリーA、ネオマスカット、甲斐路は日本で育種された品種である4)。品種別生産量の推移は図1のようになっており、巨峰が1994年以来、最も多く生産されている。栽培地域は山梨、長野、山形、岡山などが中心になっている。
巨峰は海外では珍しい四倍体の品種なので、ワインの研究で世界的に有名なドイツ・カイゼンハイム(Geisenhiem)研究所からは育種母材として要請され、台湾では海外で初めて実際に導入、生産されており、海外でも注目されている品種である2)

図1 ブドウ品目別生産量(資1)

ブドウ品目別生産量

巨峰の香気成分

ブドウの香気成分については報告が多く、約450種の成分が明らかになっているが、主に欧州種のVitis viniferaと米国種のVitis labruscaについて行われたものである6)。本稿では和のブドウを代表する巨峰と欧州種、米国種の香気の違いを比較検討した結果を紹介する。巨峰は長野県産、欧州種は岡山県産のマスカット オブ アレキサンドリア、米国種は長野県産のコンコードを使用しており、果汁を採取した後、減圧水蒸気蒸留法、溶剤抽出法により香気成分を回収し各種機器分析に用いた。
分析前の果実の官能評価では巨峰は濃厚な甘さを持ったフレッシュ感、コンコードは甘く華やかで強い狐臭、マスカットはみずみずしい華やかさが特徴であった。GC-MS、GC-FIDの結果より香気成分の官能基別割合について比較したところ、図2のように大きな差がみられた。巨峰の特徴はエチルエステル類であり、コンコードに多く見られるmethyl anthranilateが検出されず、マスカットに多く見られるテルペン系アルコールは少ないことが分かった(図3)。含窒素化合物、含硫化合物については欧米種からはmethyl anthranilate、methional、ethyl 3-(methylthio)propanoate資6)、欧州種からは
4-mercapto-4-methyl-2-pentanone7)などが既に報告されているが、巨峰からは
ethyl methylthioacetate、ethyl 3-(methylthio)propionate、
ethyl 3-(methylthio)-trans-2-propenoateなど、30成分以上検出された。
AEDA法を用いて香気寄与成分の検出を行ったところ、
巨峰ではphenylethyl alcohol、2,5-dimethyl-4-hydroxy-3(2H)-furanone、ethyl butyrate、
ethyl crotonate、ethyl 3-(methylthio)-trans-2-propenoate、
マスカットではlinalool、2-methylbutyric acid、geraniol、δ-decalactone、rose-oxide、
cis-3-hexenal、hotrienol、4-mercapto-4-methyl-2-pentanone、
コンコードではethyl 2-methylbutyrate、phenylethyl alcohol、methyl anthranilateなどがあった。また、香気成分のうちいくつかの重要なキラル化合物についてCHIRAROMA® 分析も行い、結果を表1に示した8)。以上より確認された香気寄与成分は官能評価で確認された特徴を裏付けるものであった。

図2 香気成分の官能基別割合

香気成分の官能基別割合

図3 香気成分に占めるテルペン類の割合

香気成分に占めるテルペン類の割合

表1 ぶどうの主要なキラル化合物

ぶどうの主要なキラル化合物

おわりに:フレーバー開発について

グレープフレーバーといえばmethyl anthranilateを中心に組まれたコンコードタイプ、linalool、geraniolを中心に組まれたマスカットタイプが主流であったが、今回の知見より、新しく巨峰タイプを開発した。巨峰のように回収香などの調合素材がなく、単独でそのものをイメージさせる香気成分がないフルーツは他にも沢山あり、それらの特徴をつかむために分析は重要である。また、フレーバーにインパクトと本物よりも本物らしい雰囲気をもたせるには、フレーバーリストの創造性も必要になってくる。今回紹介した巨峰タイプのフレーバーも分析データとフレーバーリストの創意工夫により、最終製品の形態やコンセプトに合わせて様々なアプリケーションに対応可能となっている。このように作り出されたフレーバーがユーザー皆様の商品開発の一助となることを期待して、当社では更なる研究開発を進めている。

佐々木繁如 (2008)

参考文献

  • (1)果物と日本人 小林 章 日本放送出版協会
  • (2)日本のくだものと風土 岸本 修ら 作物・食物文化選書 古今書院
  • (3)果物のシルクロード 城山桃夫 植物と文化双書 八坂書房
  • (4)果樹全書 ブドウ 農村漁村文化協会
  • (5)新編 原色果物図説 小崎 格ら 養賢堂
  • (6)香料 No.209(2001.3)p.138
  • (7)有馬 剛 香料 No.215(2002.9)p.123-132
  • (8)Fang luan et al, J.Agric. Food Chem. 2004, 52, 2036-2041

参考資料