Green Tea Fragrance

はじめに

“Green Tea”という名前の香水に、皆さんはどのような香りを期待し、実際嗅いでどのような印象を受けるでしょうか。「緑茶っぽくない」とか「イメージとは少し違うが、爽やかで心地よい香り」と感じた方もいるのではないでしょうか。
緑茶は日本人の生活や文化に深く根付いています。それゆえ日本人の心にはっきりとした緑茶の香りのイメージがあるため、外国人が創り出す「グリーンティイメージの香り」に違和感を覚えることもあるでしょう。
過去20~40代の日本人主婦を対象に、“緑茶” “グリーンティ”と聞いて連想する香りのイメージのアンケート調査を行いました。その結果、“緑茶”では、「ペットボトルの緑茶」「緑茶成分」を連想し、香りについては「和の香り」「香ばしい香り」など、香りの表現が乏しかったのに対して、“グリーンティ”には、「香りを楽しむ」「ハーブで爽やかなイメージ」「おしゃれなイメージ」などフレグランスイメージが強く、「ほんのり甘い香り」「爽やか」「すっきり」など、香りの表現も豊かであることがわかりました。グリーンティフレグランスあるいはそれらの香りを応用した商品が日常生活に浸透しており、“グリーンティ”としての香りが受け入れられていることがうかがえます。
他人にアピールするような外に向いた香りではなく、気持ちをリフレッシュさせてくれるようなグリーンティフレグランスの香調は、親近感のある名前と嗜好に合った香りが日本人にすんなりと受け入れられ、人気のある香調の1つとなっているようです。
本稿では、世界における緑茶の歴史をたどり、グリーンティフレグランスがどのような香水トレンドの時代背景で誕生してきたのかを、代表的なグリーンティフレグランスとともにご紹介します。

西洋の緑茶の歴史

最初にヨーロッパにもたらされたお茶は、16世紀に日本からオランダに伝わった緑茶でした。その後オランダからイギリスへ、さらに18世紀にはイギリスからその植民地へと普及していきました。その中で、ヨーロッパの人々は緑茶でなく紅茶を好むようになり、現在世界で最も飲まれているお茶は紅茶となりました。
イギリス人が紅茶を好むようになった理由はいくつかありますが、イギリスの水質の問題(硬度の高い水で緑茶を淹れると味と香りが弱くなってしまう)、紅茶のフローラルで豊かな香りを好んだこと、そして緑茶の繊細な香りは何ヶ月もの航海中に劣化してしまい、香りの高い紅茶に勝てなかったことなどがあげられます。

日本茶の普及

西洋でお茶が生活必需品となった頃、お茶の世界市場を独占していたのは中国でした。しかしアヘン戦争後、中国からのお茶の調達に不安を感じたヨーロッパ諸国は、安価なお茶が調達できる開国間もない日本に目をつけました。当時の日本には外国に売ることのできる物産が多くはありませんでした。そのため、お茶は日本にとって生糸につぐ重要な輸出品となりました。生産量の増加とともに、お茶は世界に普及していきました。
しかし、粗悪品が市場に出回るようになったことや、20世紀に入りインドやセイロンでの紅茶栽培が起動に乗ったことで日本茶の輸出は停滞していきました。
東洋の健康に良い不思議な飲み物として受け入れられた緑茶も、西洋の嗜好に合った紅茶に押され、一時は影を潜めてしまいました。緑茶が紅茶に押されたもう一つの原因として、ビタミンCやカテキン類の酸化、色や香りなどの劣化が激しいということがあったようです。そんな緑茶も、1990年代に入った頃にはほぼ完璧な保存技術が確立し、2000年初頭からの健康ブーム、日本食ブームに後押しされ、健康飲料としてまた世界に見直されるようになりました。
緑茶の歴史をたどると、一度は西洋で嗜好飲料として定着した時期があったことがわかります。しかし、主に硬水を飲用するヨーロッパの人々は、日本人が感じていたような繊細な緑茶の香りを同じように感じられなかったのではないでしょうか。気候や環境で香りの感じ方が異なることがあります。繊細な緑茶の香りは、東洋と西洋で違うとらえ方をされても不思議はないように思います。

グリーンティフレグランス

グリーンティ香調の香水が登場するのは1990年代からです。人類愛や環境問題を意識し始め、「エコロジー」「ナチュラル志向」が重視されるようになってきた時代でした。
ファッションも、ナチュラルやエコロジーをテーマにカジュアル傾向に進み、低価格かつ品質も重視したGAPやベネトンなどが人気となりました。香水もナチュラル志向や多様化するライフスタイルの影響を受け、新しい流れができていきました。環境への関心から、香りも水や海など自然への回帰をテーマにナチュラル感を表現した「海・空気・水の香り」をはじめ、「透明感のある香り」「おいしい香り」「男女共有の香り」など、新しいテーマの香りが登場し流行しました。さらに90年代後半にはストレス社会の影響を受け、安らぎや気分の高揚などをテーマにしたアロマコロジー・フレグランスも登場しました。
マリンノートという香調が生まれたのもこの時代で、New West For Her(1990)はマリンノートケミカルCaloneを大胆に使用し、驚きを持って迎えられました。Escape(1991)やL'eau d'Issey(1992)もその代表的な香水です。その後、オゾンノート、アクアティックノートなど透明感のあるトランスペアレントノートの全盛期を迎えます。Acuqa di Gio(1994)、Pleasures(1995)、L'eau Par Kenzo(1996)など透明感のあるフローラル香調に、ナチュラル感のあるグリーンやフルーティがアクセントとなった香調です。
一方で、Angel(1992)のヒット以降グルマンノート、フルーティノートの香水も次々と発売されました。本能的に安らぎや安心感を与える食べ物の香りを強調した香りが受け入れられるようになり、フレーバー素材をより取り入れるようになっていった時代でもありました。
そんな時代背景の中、お茶の香りもブームとなり、Bvlgari Eau Parfumee(1992)をはじめとしてGreen tea(1999)、Aroma Tonic(1999)などが次々と発売されました。
CK One(1994)もこのティーノートを持ち、ユニセックスの代表的な香りとして、日本でも若い世代を中心に大流行しました。

Eau Parfumee(1992)/BVLGARI

Eau Parfumee は、BVLGARIが最初に発売した香水で、これがヒットしたため本格的に香水ビジネスに乗り出しました。現在はEau Parfumee au the vert(the vert はフランス語で green tea)に改名されています。グリーンティブームのさきがけとなった香水で、ベルガモットやマンダリンなどのシトラスノートと、クラリセージ、ナツメグ、カルダモンなどのハーブやスパイスの香りを使って緑茶を表現しています。BVLGARIはその後もEau parfumee au the blanc(white tea)、Eau parfumee au The Rouge(red tea、ルイボスティ)などのティーシリーズのほか、ダージリンティをキーにしたBVLGARI pour hommeやジャスミンティをキーにしたpour fammeなど、お茶の香りを取り入れた香水を多く発売しています。

GREEN TEA(1999)/Elizabeth Arden

グリーンティという名前の香水で最も知名度の高い香水といってもよいでしょう。ハーバル・ヒーラー(薬草)として広く知られてきたグリーンティとレモン、オレンジ、ベルガモット、ミント、ジャスミンなどエッセンシャルオイルをブレンドしたアロマコロジーフレグランスです。シトラスとハーブ・スパイスでグリーンティを表現しているところは先の香水に似ていますが、透明感のあるミドルノートと特徴的なスパイス、ラストにオークモスが効いた、爽やかで清潔感あふれる日本でも人気のある香りです。その後もSpiced green tea(2002)、Iced green tea(2002)、Green tea tropical(2007)、Green tea lotus(2008)、Green tea Exotic(2009)、Green tea Lavender(2010)とシリーズ化している香水です。

Aroma Tonic(1999)/Lancome

エッセンシャルオイルをベースにしたアロマコロジーコンセプトのフレグランスです。ベルガモットやレモン、ライムなどのフレッシュなシトラスに、クラリセージやカルダモン、ナツメグ、ジンジャーなどのハーブ・スパイスとフルーティノートのアコードが気持ちをリフレッシュさせ、元気にさせてくれる香りです。

Eau de The Vert(2000)/Roger & Gallet

トップのシトラスや透明感のあるフローラル、ラストノートなど、これまでのグリーンティの大きな流れを引いています。しかし、トップはスパイスを効かさずにすっきりとリーフィーグリーンを際立たせ、ミドルは玉露や抹茶に強く感じる青臭さのような渋みのあるグリーンノートをviolet greenで表現した、緑茶のグリーンノートを強調したタイプの香りです。

他にもGREEN TEA/H2O+ (1997)、THE VERT/ L'OCCITANE(1999)、FUJIYAMA GREEN/SUCCES DE PARIS (2001)、H2EAU GREEN/JEANNE ARTHES(2001)など、この年代にグリーンティフレグランスは多く発売されました。
その後はEclat d’Arpège Lanvin for women(2002)、SERENITY/ゴースト(2003)、Paul Smith Rose Paul Smith(2007)、Tokyo by Kenzo Kenzo(2007)、Eau De Fleur de Thé Kenzo (2008)など、緑茶をアクセントにした香水が発売されるようになっていきました。

「緑茶の香り」の商品

「緑茶の香り」の商品についても少し触れておきましょう。日本における緑茶の香りの商品は実に多く発売されています。茶の香りは和の香りとして馴染み深く、日本では嗜好の高い香調で、除菌・抗菌のイメージや安らぎ・安心感のイメージもあるため、芳香剤、食器洗剤、入浴剤などさまざまな商品に展開されています。
先に紹介したグリーンティの香水もあれば、日本人が思い描くリアルな緑茶を感じさせる香りもあり、さまざまな香りが楽しめます。特に2000年始め頃から、緑茶の消臭、除菌、洗浄効果を謳い、緑茶成分配合の商品が出始め、2005~2006年頃にはグリーンティブームが起こりました。しかし今はブームも去り、1つのジャンルとして確立したものの、消費者の目は次の新しい香り、もっと新しい視点の香りを欲しているようです。

終わりに

最近「日本茶カフェ」や「フレーバー日本茶」が流行っているようです。中には外国人が経営するお店もあります。フランス人が経営する日本茶カフェがメディアで取り上げられ、これまでにない日本茶の楽しみ方が紹介されるのを見ると、新しい発見があります。日本茶といっても玉露、抹茶、煎茶などさまざまな種類があり、産地や作り手にこだわった日本茶や季節限定茶などもあります。お茶の淹れ方や温度、水、茶器なども重要な要素で、知れば知るほど奥深いものです。
近年では緑茶や抹茶への関心がますます高まっており、世界に日本茶の魅力が認められてきています。海外の文化や感性と混ざり、新たな緑茶のトレンドが生み出され、一度は落ち着いた香水や商品の緑茶ブームにまた新しい風が吹くかもしれません。
香料開発に携わる者として、また日本人として、緑茶の香りの魅力を引き出し、日本から世界に“Green Tea”を発信していければと思っています。

岡島佐知子(2011年)

参考書

  • ・ お茶の歴史 ヴィクター・H・メアアーリン・ホー 河出書房新社 2010年
  • ・ 日本茶の基本 枻出版社 2010年
  • ・ VENUS Vol.21 国際香りと文化の会 2009年
  • ・ 一杯の紅茶の世界史 磯渕猛 文春新書 2005年
  • ・ お茶は世界をかけめぐる 高宇政光 筑摩書房 2006年
  • ・ 僕は日本茶のソムリエ 高宇政光 筑摩書房 2002年
  • ・ 高砂香料時報 No.150  2004年
  • ・ 世界の香水コレクション NOW企画